御本人様から承諾いただきましたので、
ちょっとしたSSを…。
ミルファリアさん(a51392)、背後プレイヤー様には
心より感謝を…。
ちょっとだけ?暴力的な描写もありますので、
閲覧される際は御注意下さいませ。
(8/18少し加筆修正しました)
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「……っ」
先刻より、何時終わるとも知れない力比べが
続いていた。
某DG(ドラゴンズゲート)の奥。ここでは見かけたことのない
モンスターが一体、探索を続けていたマユリたちの前に
現れたのは…運悪く、マユリ以外のメンバーが戦闘不能に
なり、急ぎ回復の光点=パワーポイントに向かっている途中の
出来事だった。
一体何処から迷い込んだのか、モンスターは大柄な男性──のような姿。
両腕の代わりに緑色の蔓草…巨大蔦を小型化したような植物が生えている。
(…私が回復のタイミングを誤ったばかりに、こんなことに…この場は何とか
退避しなくちゃ…パワーポイントか、最悪転送ゲートまでは…)
マユリが掲げるは両手杖「なよたけ」。折れた薙刀の刃に代わり、
カットされた白い宝玉を埋め込んだ術杖だ。
隙を作るため、慈悲の聖槍を放とうとした瞬間。
「!?」
モンスターの両腕の蔦がビュン、としなった。
杖の上下を絡め取られ…すさまじい力で引っ張られる。
思わず手を離しそうになり、マユリは歯を食いしばって
その場に踏みとどまった。
掌が、焼けそうに熱い…が、武器を手放してしまえば、
その後に待っているのは…。
膠着状態が…そのまま続いている。
冒険者とはいえ、元々は非力な少女である。
マユリの体力も、限界に近付いていた。
「マユリさん!?」「マユリちゃん…!」
背後から、戦う力を失った仲間たちの声が聞こえる。
「大丈夫です、まだ…あうっ!?」
仲間に心配をかけまいと、精一杯に微笑みかけたマユリの表情が一瞬、
凍りついた。
「…か…はっ…」
黒い瞳が大きく見開かれ──苦痛の色を伴って閉じられる。
「……くっ……」
モンスターの口が大きく、ガバァと開き…
飛び出したのは舌ではなく、硬そうな皮膚と骨ばった指を持つ、
長い腕。
その手が、マユリの細い首を、喉をつかみ──
ギリギリと絞めあげていた。
カラン、と音を立て、蔦に絡まれたままの「なよたけ」が床に落ちた。
杖から離れ、震えるマユリの両手が、モンスターの「手首」を抑えるが…
びくともしない。
そのままズリズリと引き寄せられ、手前でグッ…と持ち上げられる。
「……う……!!」
歯を食いしばって苦しみに耐えていた口も、やがて半開きにパクパクと喘いで
空気を求める。バタつかせていた足の動きも、徐々に弱まっていく……!
「…は…っ…う…」
涙の溜まった薄目を開けた。
モンスターが、笑っている。
すぐには絶命しないよう、力を加減し──
じわじわと…いたぶりながら殺しを楽しむ、理性を失ったサディストの表情。
(悔しい…こんな…ところで…負けたく…ない…!!)
刹那。
呼応するかのように思えたのは偶然だろうか。
モンスターの背後で斬撃音と共に爆発が起こった。
マユリを掴んでいた手が離れ、彼女はそのまま床に投げ出される。
悠然と立っていたのは、モンスターの蔦より鮮やかな、
燃えるような緑の髪のひと。
全長は3mにも及ぶだろうか、巨大な…刃に関しては素人の
マユリから見てもいわくありげな…禍々しい光、いや、
闇の波動とでも言うべき何かを発する剣を軽々と肩に担ぎ、
その得物にふさわしい…笑みを浮かべた女性。
背中を焼け焦がされたモンスターはゆっくりと、怒りを込めて
彼女の方に向き直った。
「なよたけ」を放り出した両手の蔦と、口の隠し腕が3本、同時に放たれる。
だが、それらが彼女の肢体を鷲づかみにすることは無く。
髪に生えた桜の華が舞うように……
素早く側面に回った彼女は、嬉しそうに口元をゆがめつつ──
振り下ろした剣で、モンスターの全ての武器を一度に
斬り落としていた。
モンスターの咆哮、いや悲鳴が響き…
それからは一方的だった。戦いと言えるものではなく。
激しく咳き込みながら「なよたけ」を拾い、やっとの思いで
マユリが自分に回復アビリティをかけた時には──
既にモンスターはブツ切りの肉塊と化していた。
「ケホッ、ケホ…あ、あの…危ないところを、有難うございました…」
首をさすりながら、マユリが頭を下げる。
「…敵が居たから殺っただけ。汝のためにやったのではない」
相手はそっけなく言うと、マユリの方をちらりと一度見やったきり──
さっさと先に行ってしまった。パワーポイントのある方へ…。
数日後。
マユリは、ふと立ち寄った冒険者の酒場で
彼女を──あの時の狂戦士を見かけた。
結った髪を耳の上でポニーテール状に揺らし、
カウンターでソフトドリンクを楽しみつつ
店主相手に何やら談笑している。
その笑顔と物腰はあくまで優雅で柔らかく、洗練された淑女のそれであった。
「あ、あの…」
人違いか双子の姉妹かと内心「?」マークに支配されつつ、マユリは声を
かけてみた。
「あら、先日のDGの…お怪我の方はもう、よろしくて?」
……同一人物らしい。
それにしてはあまりにも、戦闘時と今とで性格が違いすぎるでは
無いか!?
「私、ミルファリア・ノースウッドと申しますわ…よしなに」
ニコニコと向けられる笑顔は、多分、間違いなく、本物で…。
ハッと我に返り、慌てて自己紹介と先日の礼を述べるマユリ。
「彼女」と「彼女」が同一人物であることを、マユリが改めて実感するのは、
もう少し後日の、最初から一緒にDGに潜った時のこと……。